どんぶりちゃわん

作品やイベントの雑感等々

「An seule étoile」 私感。

凄まじかった。

役というフィルターを通さない生の伊波杏樹はこんなにも、こんなにも。

僕は彼女のことを全然知らなかったのかもしれない。

幸せ、愛、悔しさ、反骨心、激情、希望。

様々な気持ちを歌に乗せて表現していた。

歌と表情だけでこんなにも感情が伝わってくるものなのか。

感情を揺さぶられ続けた2時間だった。

 

彼女は言った、「私には歌と芝居しかないから」と。

そしていつものように目を細めた。

その時のどこか悲しげで、なのに揺らぐことのない芯のようなものを感じさせる笑顔が忘れられない。

彼女は生き方を決めてしまったのだろう。

彼女がこれから行く先にはたくさんの苦難や苦悩が待ち受けているかもしれない。

そんなやつらに心を折られそうになった時、少しでも、ほんの少しでも支えになれる存在でいれたらなと本気で思った。

 

彼女は言った、「ステージに立つのが怖いと思った」と。「逃げ出したかった」とも言った。

半年前、6回もの大技を成功させたあと「ちょっぴり怖かった」と打ち明けてくれたのは記憶に新しい。

その時に初めて彼女だって人間なんだということを思い知らされた。無意識に彼女を神格化し、崇め奉っていた自分をぶん殴った。

それでも足りなかった。心のどこかで彼女は何に対しても勇猛果敢に立ち向かっているものだと思っていた。

そんなことはなかった。彼女は人間だった。人間なんだよ。

それほどまでに追い詰められていたとは思わなかった。強い人間だとばかり思っていた。

僕はいくら彼女のことを見誤るんだろうか。

でも、彼女に弱音を吐いたということは私達ファンを少しは信頼してくれているのかなと思うと嬉しかった。

そんな空間を作ることができた僕達はそのことを少しだけ誇りに思って良いと思う。

彼女が120%自分を誇ってくれるその時が来るまで、彼女が言う「変わった人」であり続けたいなと思った。

 

 

彼女が持っている輝きはみんながみんな持っているものではないと思う。

だが、彼女が見せる弱さは誰しもが持っているものなのかもしれない。

だからこそ僕は彼女に惹かれてしまう。多分に彼女と同じようなものを抱えて生きているから。どうしたって自分を重ねてしまう。

でも彼女は誰よりも懸命に、泥臭く生きているように思えた。

彼女と自分を重ねたところで僕の輝きは大きくなることはない。むしろ自分の情けなさが浮き出るだけだ。

彼女のようになりたい。

他人を愛せるようになりたい。自分を表現できるようになりたい。

どうしたらなれる?

ゆっくりとでも進んでいくしかないんだと思う。

転んで、立ち上がって、転んで、立ち上がって、なりたい自分に近づいていくしかないんだと思う。

 

彼女は言った、「君らも凄いんだからね、こんな私を引き上げてくれるんだから」と。

彼女の愛を素直に受け止めている自分もいた。

でも、どうしても「全然凄くねえよ」と納得できない自分がいた。やはりどこまで行っても自分が納得できるかどうかなのだ。

じゃあどうする?

自分が納得できるくらい凄くなってやろうじゃねえかよ。彼女に負けないくらい頑張って頑張って頑張って、自分のやりたいことやってやろうじゃねえか。

そういう気持ちだ。今はね。

僕は弱い人間だから小さい壁ですぐ折れそうになると思う。そんなときに今日のことを思い出したらもうちょっとだけ頑張れそうな気がする。

まだまだ1人だけで夢に向かって走ることはできない僕だけど、勝手に彼女の力を借りて、できる限り遠くまで走っていきたいと思う。

それが僕なりの彼女への恩返しだ。